ひらやんのブツクサ独り言   ON WEB
 バックナンバー一覧メルマガ登録・解除・変更お問合せ 2003/12/3配信

戦車に乗る理由

 陸を走る車輌タイプの兵器の中で、戦車は破壊力と防御力の両方を兼ね備え、 総合的な戦闘能力では最も優れています。それだけに歩兵にとっては最大の脅威で、即応予備自衛官として普通科連隊で訓練している私たちは「突然ここに戦車が現れたらどう対処するか」ということを、繰り返し繰り返し演練するの です。

 いまを去ること20ン年前、現職の自衛官として入隊して職種を決めるとき、 私は戦車部隊に行きたいと希望を出しました。陸上自衛隊に入ったからには、 一線部隊が面白いだろう。中でも陸戦の王者は、やっぱり戦車しかない。そん な理由でした。それに、ほんのちょっと本音を言わせてもらうと、戦車乗りに なれば、重い銃と背のうを担いで何十Kmも行軍する苦痛から解放されると考え たからでした。

 戦車に乗るということは、たんに乗り物に乗る感覚とは明らかに違います。 たとえば乗用車に乗るのは、車を足の延長として、移動の手段としているわけ です。トラックならば、大量の荷物を運ぶ手段です。ところが戦車は、そのいずれにも当てはまりません。

 実際に戦車を見たことのある人ならお分かりでしょう。まず一般の市販車な ら常識の「居住性」がほとんど、いや全く無視されています。狭い戦闘室には 巨大な砲が据え付けられ、空間は数十発の弾薬で埋め尽くされます。座席らし きものがあるのは操縦席と砲手席だけで、車長でさえ小さな腰掛ていど。いち ばん下っ端の装填手にいたっては、砲の横に「立つ」のが正式な乗り方なので す。機械類もたんにボルトで締め付けてあるだけ、戦闘室には突起物が多いの で、走行するときは戦車帽なしで乗ることは許されていません。

 でも不思議なもので、このような劣悪な居住性を心地よしとは思わないまで も、不平不満を言う乗員はほとんどいません。戦車乗りになるには適性はもち ろんですが、人気職種だけに高い競争率をくぐり抜けた「選ばれた者」という 自負心があります。そしてなにより、戦車が好き。この一語に尽きます。

 戦車は乗員がそれぞれの持ち場で互いに連携しあうことで最大限の戦闘力を 引き出すという点において、戦車と一体化しているような感覚があります。こ れが他の兵器と異なる点で、まるで自分が戦車の一部になったような不思議な 感覚なのです。  また、他の職種の人に言わせると「戦車隊の人たちには独特の、家族的な雰 囲気がある」といいます。演習になれば車長以下3〜4名の乗員が狭い空間で 数日間苦楽を共にするのですから、階級の差を超えた絆が生まれます。それを 「家族的」と表現するのが適当かどうかは別として、戦車との一体感と共に強 い仲間意識が戦車の性能をより一層引き立てて、陸戦の王者として最も恐れられる存在であり続けているのかもしれません。


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