ひらやんのブツクサ独り言   ON WEB
 バックナンバー一覧メルマガ登録・解除・変更お問合せ 2004/4/14配信
防衛論争(2)

 すでにどこかで書いたかもしれませんが、私がこれまでいくつか経験した防衛論争の中でも、印象深かった相手とのやりとりがあります。

 インターネットが普及する前、パソコン通信が全盛期の頃です。今の「2ちゃんねる」ほどではないにしろ、誰もが好きに書き込めるBBSで期せずして防衛論争に発展してしまいました。相手はたぶん高校生でしょう。文章から判断して言葉遣いが幼いし、ボキャブラリーも豊富に持っているとは思えませんでした。その彼を仮にA君としておきます。

 A君は自衛隊無用論を展開していて、その言い分を要約すると「日本を侵略しても、何の利益にもならない。だから自衛隊はいらない」ということでした。

 私はまず「日本を侵略しても利益にならないと考える理由は何か?」と尋ねてみました。

 A君の答えは「日本を侵略するのは、日本の経済力が目当てなのだと思います。しかし日本の企業は高度な技術を持ち、そのシステムも複雑です。侵略者が入って来てもすぐに経営できるわけがない」でした。

 正直なところ、私には咄嗟にこの意味が分かりませんでした。「侵略されること」と「日本企業の経営」がどうしても「=(イコール)」で結びつかなかったからです。それを問い質すべく何回か意見をやりとりしてやっと分かったのは、A君は「侵略」という意味をそもそも理解していないのでした。
 つまりA君の頭の中では「侵略される→国を乗っ取られる→経済活動を牛耳られる→それは日本人の経営者が皆殺しにされて侵略者が日本企業を経営することだ」という図式が出来上がっていたのでした。

 こんな奴と大真面目に論争していたのか……。暗澹たる気持ちになりかけましたが、この際だからもうひとつの疑問も解いておこうと思って質問してみました。

「武力で攻められたら、国を守るためには戦う以外に方法がないことを分かっていますか?」
 果たしてA君の回答は振るっていました。
「日本にはもう戦争ができるような広い場所は残っていませんよ」

 “戦争ができる広い場所”ってなんだ? これも理解するまでに少し時間がかかりました。「広い場所って、どういうことですか?」と尋ねてみると、A君から「軍隊を動かせる場所のことです」という答えが返ってきました。それからさらに2〜3のやりとりがあって、どうやらA君は「戦争とは、広い場所に両軍が対峙して、誰かの合図で始めるものだ」と思っていたらしいのです。
まるでゲームか将棋です。

 A君には、日本を武力で攻めるには海路か空路しかないこと、本土内に兵隊を送り込もうとすれば海から上陸するか、空挺降下という方法があるけれど、いずれの場合も上陸地点や降下地点の予測は比較的容易であることなどを説明しました。そして「敵が上陸してきた場所、あるいは降下した場所が最初の戦場になるので、わざわざ広い場所を用意してあげる必要はないし、あらかじめ土俵を決めて戦争をするなんて聞いたことがない」と付け加えました。

 それ以後、A君からの反論はピタッと来なくなりました。納得したとは思えません。自分が想像していた戦争のイメージと、私の説明があまりにかけ離れていたので混乱したのでしょう。

 A君の事例は、なにも特別ではないと思っています。かつて「戦争になったら、誰を殺しますか?」と大真面目に訊いてきたバカもいます。他国に侵略されるとはどういうことなのか、戦争とはどういうことなのか、その結果どうなってしまうのか。学校では故意に教えないことばかりです。だからシミュレーションゲームから勝手に想像を膨らませて、間違ったイメージを育ててしまうのではないでしょうか。

 今日もあるBBSで、こんな書き込みを見つけました。
「今度、自衛隊の曹候補学生を受験します。自衛隊をステップにしてフランス外人部隊を目指しています」

 戦後の誤った平和教育のツケが、ここに極まった感があると思ったのは私だけでしょうか。


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