ひらやんのブツクサ独り言   ON WEB

陸上自衛隊即応予備自衛官のエッセー「ひらやんのブツクサ独り言」は、陸上自衛隊、軍事関連ニュースの理解・軍事研究に役立つ情報を、メールマガジン「軍事情報」でお届けしています。
 バックナンバー一覧メルマガ登録・解除・変更お問合せ 2004/10/27配信
「長」という責任

 たとえ即応予備自衛官でも、ひとたび召集されたならば階級のあるれっきとした自衛官です。訓練でも階級相応の役割と責任を与えられます。

 私は陸曹(下士官)ですから、部隊で訓練をやるときは「班長」「分隊長」「副分隊長」「組長」というように「長」のつく役職に補せられることが多くなりました。小部隊とはいえ3〜10名ていどの人間集団を指揮するのは、なかなか難しいものです。

 たとえば班の中の組を指揮する組長になったとき、班長の号令を聞いて組員に具体的な指示を与えねばなりません。自分の頭の中では具体的なイメージがあるのに、それがうまく言葉で表現できず、まごついているうちに状況が変わってしまって、また新しい判断を求められるということがよくあります。班長の意図をよく理解して、自分の組をどう動かすのかを決め、それを組員に分かりやすく伝える。この一連の作業をまさに瞬時に行なわなければ、班は組織としてうまく動けなくなってしまうのです。班が動けないということは小隊の動きを阻害してしまうことになり、それが中隊さらに連隊というように、部隊全体に影響してしまうのです。ですからたかが組長といえども、その責任は重大なのです。

 即応予備自衛官になった年に、いきなり機関銃手を指揮する組長に指名されました。現役時代は戦車部隊で勤務し、除隊後は予備自衛官を11年やっていた私に機関銃を指揮しろというのは、いささか無茶な話でした。が、ここで私は一計を案じました。自分と機関銃手、そして副機関銃手を戦車に見立てて、戦車ならどう動くかというイメージを頭の中に描いてみたのです。

 初めはうまく行きませんでした。11年の予備自衛官生活は、自衛隊用語はおろか、現職時代には難なく行なっていた簡単な動作すら忘れさせるに充分な時間でした。右前方に射撃陣地として適当な堆土があるので、機関銃手にそこへ移動するよう指示する――。そのていどの指揮ができなくなっていることに、我ながら愕然としました。しかし何回か失敗したり、実際にやり直しているうちに次第に勘を取り戻してゆきました。戦車の動きに置き換えてイメージするという方法も意外にうまく行って、言葉が出てくるようになると面白いように指揮が執れるようになったのです。

 自分の意図を明確に伝え(自衛隊では「企図の明示」といいます)、誰が・どこで・何のために・何をするのかを簡潔に要領よく具体的に伝えることができるようになれば、人間を動かすこと自体はさほど難しくありません。しかし指揮官の資質が真に問われるのは、刻々と変化する状況を的確に捉えて常に正しい判断ができるかどうかにあります。判断を間違えると部下を失いますし、自分も含めて部隊が壊滅するかもしれません。なにより自分自身の信用を失います。そういう意味では、指揮官という役職は人一倍訓練と経験を積んで、時間をかけて育てられるものなのです。

 体系的に整理された理論はもちろん重要ですが、知識よりも重いもの、それが経験だと思っています。

 
 余談ですが、全般的にみて日本人は「長」のつく肩書きに対して無条件に畏れの念を抱く傾向があります。たとえば差し出された名刺に「営業課長」とでも刷り込んであれば「課長さん」と、ごていねいに役職を「さん」付けで呼んだりします。これが「営業担当」ならどうでしょう。「担当さん」と呼ぶことはまずありません。そして「長」のつく人は「えらいさん」などと言ったりしますが、はっきり言ってしまえば世の中に本当に偉い人など、そうは沢山いません。「課長」にしろ「部長」にしろ、あるいは「社長」や「連隊長」でも同じですが「課長という仕事に就いてる人」「部長という仕事に就いている人」で、その役職に応じた責任と職務権限が与えられている人に過ぎないのです。

 「長」がつくから偉いのだと、自分で思っている人ほど厄介なものはありません。思い出してみてください。定年で肩書も役職もなくなって誰からも相手にされなくなったのに、自分はまだ偉いと思いこんで周りから顰蹙を買っている人の1人や2人、誰にも心当たりがあるでしょう。

 「長」の付く立場には、それ相応の面白さとやりがいがあります。同時にそれ以上に大きな責任が伴うのだということを、ご理解いただければ幸いに思います。


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